【小売業の方へ】小売業のこれからを考える3つの視点

私は小売業の経営コンサルタントではありません。一ユーザーです。しかし、自分自身会社経営に携わり、少しばかり経営というものがわかります。また、保険という仕事を通じて様々な経営を見てきています。そんな視点から見た、小売業の経営者の方へ今後小売業はこんな風に考えてはいかが?という3つの視点を提供したいと思います。

一つ目は、顧客には二種類の購買行動がある、ということ。
二つ目は、顧客は安さや品ぞろえを期待しているだけではない、ということ。
三つめは、顧客に呼びかける方法をもっているか?ということです。

素人ゆえ、稚拙な部分もあるかもしれませんが、わずかばかりでも、今後の経営の参考になれば幸いです。

小売業が意識したい2つの購買行動

警戒宣言下における小売業の賑わい

2020年5月現在、日本は新型コロナウィルスの影響で、外出自粛の要請が行われています。ゴールデンウィークにもかかわらず、観光施設やレジャー施設は軒並み営業を自粛。行き場をなくした子供連れの家族は、日ごろは誰も降りることのない小さな河原でBBQを楽しんだり、住宅街でスケートボードやバトミントンを楽しんだり、子供たちのストレスを発散させるために色々と工夫を凝らしているようです。

こういった時には本来は、大型のショッピングモールはちょっとしたストレス解消には最適なのですが、残念ながら生活必需品を扱うスーパー以外は軒並み店を閉めています。この10年くらいで、書店も多くはショッピングモールに入ったため、どこもかしこも営業自粛。結局、通販で買わざるを得ない状況になっています。

そんな折、少し驚いたことがありました。それは、少し規模の小さなショッピングセンターを訪れたときのことです。そこには中型の書店もあれば、雑貨店もあるのですが、一部のお店を除いてお店が開けられていました。それでか・・・。そう思ったのは、そのショッピングセンターはありえないほど混雑していたからです。

また、私の近所では廃れかけていた商店街に、今は人がひしめいているそうです。彼らが買い物に出かけるのは、どうやら必要なものを手軽に便利に買うだけではないような気がします。

物を買う、という行動には2つある

多くの男性諸氏と同じように、私は妻の買い物に付き合うのが苦痛なことが結構あります。必要なものを買うだけなら30分もある買い物を、1時間も2時間もかけてするのは理解不能です。しかし一方で、たとえば私は一度本屋に入るとなかなか出られなくなりますし、最近はあまり買わなくなりましたが、一時期、CDショップもまたかなりの滞在時間が必要でした。

買い物なんて、短時間で済ませろよ、と思う私がいる一方で、あてもなく書店を徘徊する私も同じ私です。よくよく考えてみると、日常的に使うもので、特に違うブランドの商品に変えたいと思わないものに関しては、できるだけ手間をかけずに買いたいと考えていることに気づきます。もう買うものは決まっているのだから、Amazonでも楽天でも、ネットスーパーでも何でもいいので、通販でいいじゃないか、と思うわけです。私が最もお金を使う、書籍の購入も同様です。

しかし、同じ書籍でも、私は半分以上はリアルな書店で買うのです。重い荷物になるし、手間もかかるのになぜ?といわれるかもしれません。しかし、大事なことがあるんです。

リアルな小売店には、今まで知らなかった世界と出会える

という利点があるのです。

顧客の2種類の購買行動は、一つは日用品を特に何の疑いもなく機械的に買う行動。二つ目が、新しい出会いを求めてお店に運ぶ行動です。

ターゲットは娯楽客

さて、この二つの購買行動を並べて考えてみましょう。日々購入する砂糖や塩、歯磨き粉やティッシュなどといったものは、文字通り機械的に買い物をします。ストック名がなくなるから買う、というのが動機です。そしてすでにどのブランドを買うかを決めているので、あとは安いか高いかです。ばあいによっては新しいブランドを目にして、そちらを試すケースもあるかもしれませんが比較的少ないでしょう。

こういった買い物には、「楽しさ」という要素は関与しません。よく、ストレス解消に衝動買いをする、という話を聞きますが、砂糖を衝動買いでたくさん買ってすっきりした、という話は聞いたことがありません。こういった楽しさの伴わない買い物は苦痛ですらありますので、そこに向けた出費は一円でも安いほうがいいし、時間や手間をかけたくないものです。楽しくないから、「比較してより良い条件で買いたい」という思いも出てくるのかもしれません。

一般的に小売りの世界でいわれる、「安く売る」ことがかちである、といわれるのはこういった敵的に消費する商品です。しかしなぜか小売りをしていると、安くなければ売れない、という思いに取りつかれ、何とか安く売ろうと利益を削って努力する、というのがよくあるパターンではないでしょうか。

しかし、こういった安売り合戦はいわば消耗戦です。そういった消耗戦に、小さな商店が大手スーパーやAmazonのような企業と戦って勝てるのでしょうか。もし勝てないとすれば、違う方法を考える必要があるのではないでしょうか。

小規模な小売店は、大規模なスーパーや通販にできないことを考えていく必要があるのではないでしょうか。狙うべき顧客層は、「娯楽」としての買い物を楽しみたい層なのではないでしょうか。

もしそうだとすれば、スーパーに足りない品数で、スーパーと似たような商品の取り揃えはどうかと思うのです。書店でいえば、たとえば自己啓発書専門店とか、恐怖小説専門店とかであれば小さい店先でも十分な品ぞろえが可能になります。しかし、多くの小規模書店は、雑誌もそこそこ、実用書も、コミックも、小説も、どれもこれも売れているものを適当においているだけです。そんなお店は、少なくとも本好きは集いません。

とはいえ、貴店が消耗品中心のビジネスを続けるならそれもありです。ただ、問題なのは何の考えもなしに、顧客を十把一絡げで見ることです。

Pete LinforthによるPixabayからの画像

顧客が求めているのは「未知の世界」へのいざない

顧客は自分が本当に欲しいものが何かを知らない

私がよく買うという本の話に戻りましょう。毎週のように本を買うわけですが、すでに「この著者の本は必ず買う」とか、「友人に勧められたこの本はすぐほしい」と目的がはっきりしていれば、Amazonの検索を使えば一発で買うことができます。しかし、人は本を買うとき、常に自分が何を読みたいかを知っているわけではありません。だから、書店に行って、いろんな本を手に取り、あらすじやまえがきを読んでみたりするわけです。そこでピンとくるものがあれば買うでしょうし、そうでなければ買いません。

今までは全く関心のなかった本を、たまたま平積みにされていたから買ってみて、読んでみたらすごくよかった、なんていうことを経験している人も多いと思います。そういえば昔、レコードやCDを「ジャケ買い」なんて言って、全く知らないアーティストの音楽をジャケットの美しさにひかれて買ってみた、なんていうこともありました。

そういう経験は失敗もあれば、思いがけない一生モノの出会いとなることもあります。

消費者の多くは、何が欲しいかがわからないとき、ウィンドーショッピングをします。そうやって、商品の実物をたくさん見ることで、頭の中に何か引っかかるものを探しているのです。

検索ではたどり着けない出会い

顧客は購買に「出会い」を求めている、というのは実はAmazonなどはよく知っています。だから、過去の購入履歴から、そのユーザーが関心を持ちそうな商品を推薦してきます。しかし、それは過去の自分の購入履歴の延長ですから、「思いがけないであい」にはなりえません。すべてが想定内です。

またそういったレコメンド(商品の推薦)機能は、同じ買い物傾向のある人のデータも参考にしていますから、かなり精度の高いものになります。しかし、突発的な興味関心の変化には対応できるはずもありません。Amazonが、リアルな店舗を出店し始めたのは、そういった効果を狙う側面もあったように耳にしています。なかなかWEBの世界でできないことを、リアルの店舗に担当させよう、ということなのでしょう。

リアルがヴァーチャルに圧倒的につよいのは、五感による体験という分野でしょう。

私自身、何か新しい気付きを得られる店は、ついつい足を傾けてしまいます。

店舗のエンターテイメント化

ビレッジ・バンガードというお店をご存じでしょうか。一応、本屋さんというジャンルに入っているそうですが、お店の中は何が何だかよくわかりません。たいてい実用品というより、ちょっとしたお遊びグッズだったり、何となく興味はあった毛となかなか専門店に行くのも気が引けるような趣味の世界だったり、いろんなものがてんこ盛りです。言ってみれば、買い物テーマパークのような印象でしょうか。

このお店はかなり遊びの要素が強いのですが、別におふざけのお店だけでなくてもいいと思います。たとえば、ある小さな書店は、ことあるごとに本の著者を招いて講演会などのリアルなイベントを催しているようです。常に情報発信を欠かさず、そのお店にはいってみれば、「常連さん」がいるようです。

実は、100均ショップも私は、ある意味、テーマパークだと思っています。100円縛りで、ワンコインで買えてしまうものが日用品から、玩具や、家庭菜園グッズまで。私の妻や娘は、何か掘り出し物がないかと、毎週のように100均に通っています。彼女たちもまた、必需品を買うためというより、買い物を楽しむためにお店に行っているように思います。

だから難しく考える必要はないと思います。いつ行っても代り映えのしない、どこにでもあるものしか置いていないお店に人は好んでいきません。逆に、何か新しいものと出会えることを期待して人はお店に足を運びます。

そんなお客様の思いを受け止めるお店作りができているのかは、一つのチェックポイントではないでしょうか。

Sandel SilivestruによるPixabayからの画像

顧客に直接呼びかけているか?

顧客吸引力の低い商品を扱うと考える顧客との付き合い方

小売りにおけるビジネスのキイは、何でしょうか?商品のラインナップや仕入れルートでしょうか?それも大事なのかもしれません。なにしろ、商品を並べれば、一定程度の顧客はその商品を求めてやってきます。

しかし、私どもの保険という商品に関して言うと、商品の引力は実は非常に弱いのです。なにしろ、当社が今の場所に事務所をオープンして15年近くになりますが、ひと月に一人も新規の来店客などいません。多分ほかのビジネスだとそうそうないパターンだと思います。

そういった商品ですから、ひとたびご契約いただいたお客様とは、できるだけ長いご縁を保とうと努力します。たとえば、自動車保険は一般的に1年で契約が終わります。いわば、1年で商品価値がなくなる消耗品といえるものです。その契約を私たちはどうするかというと、商品が切れてしまう前にお客様に案内し、電話を差し上げ、来年ももう一度ご購入いただく仕組みを作っています。

これが一般の小売だと、今日お店に来てくれたお客さんは次にいつ来てくれるのかもわからず、来てくれないならなぜ来てくれないかもわからない状態です。いわば、毎回新規顧客のように、扱うわけです。しかも、そういったお客様をお店に誘導するのは、汎用のチラシのみ。それでは、お客様は増えません。

直接メッセージをお届けできるか?

ここで大事なのは、個別のお客様に個別のメッセージをお送りできるか?です。郵便でも、メールでもLINEでも、手段は何でもいいのです。「前回買っていただいた〇〇の新型バージョンが入荷しましたけど見に来られませんか?」というメッセージを固有名詞で打てるか打てないか。

というのも、私に限らず、たまたま今日行ったお店が「感じがよかったね」となっても、次に行くとは限りません。おそらく、リピートしてくれなかった顧客の多くは、あなたの店を好きでもなければ嫌いでもない、という状態だと思います。いつも徹通り道なら又行くかもしれませんが、そうでなければほかのところで買えるなら、ほかで済ませるかもしれません。

そういったお店がお客様にとって特別なお店であるためには、まずはきちんとコミュニケーションが取れる状況が必要です。顧客カードに記入していただき。メルマガに登録いただく。メルマガも、全員に一斉配信ばかりではなく、個別のお客様にマッチしたパーソナルなものであれば、ベターです。

それができないにしても、しっかりと人と人としてのつながりを持つことができれば、意外とそのお店に来たくなるものです。たとえば、コロナでたくさんの飲食店が休業に追い込まれましたが、わざわざそのお店のテイクアウト品を買いに行く人がいるケースがあります。それはその店の人と、少なからず親しい付き合いをしていたお客様ばかりではないでしょうか。

小売りの場合はお客様との接点が少ない分、そういったコミュニケーションの機会をしっかりと考える必要があります。比較的すいている時間にお客様にメールするなんて言うとホストかホステスか、なんていう風におっしゃる方もいますが、そんな努力をしてみるのも一考かと思います。私たち保険業界の人は、そうやって商品の吸引力の低さをカバーしています。

小売りの仕事の本質

戦後の復興期以降、小売業というのはメーカーが作り出した商品をより多くの人に、より安くお届けすることがその社会的な役割だったように思います。しかし、今や物はあふれています。誰もが知っている、何のこだわりも持たないコモデティ商品(消費財などの差別化のしにくい商品)は、どこでも扱い、特に大規模なお店では大量に安く売られていますし、通販で翌日には届くような仕組みも出てきました。こういった、嗜好性を伴わない商品は、合理的判断のもと、利便性がますます重視されるようになるでしょう。

一方で、人は買い物をたんなる作業とは考えていない一面があります。買い物そのものがレジャーなのです。レジャーモードに入った買い物は、新しい世界を知り、新しい感覚を味わい、それらを購入した未来を創造することで顧客は夢を見ることができます。

ある方が、「これからのコンシューマー向けビジネスはすべてが教育業になる」といっていましたが、さもありなんです。ここにはあなたの知らない面白い世界がありますよ、とお客様に教えるのが小売業のこれからのビジネスの在り方ではないでしょうか。

さて、一概には言えませんが、今回の考え方をもとに、小売業の今後を考えるときに、こんな要素を検討いただくと、次の戦略のヒントになるのではないでしょうか?

①安売りせずに人の足を向かわせるにはどうすればいいかを考える(「同業他社との違いを作る」と言い換えるとわかりやすいかも)
②お客様が知らなかった世界を知ることができる店づくり・コンセプトづくり(いきなり完璧でなくていいので少しずつトライ&エラーをくりかえす)
③お客様とのコミュニケーション手段としての顧客名簿の完備

ちなみに、こういうことを始めると、たぶん「完成」はありません。なぜなら、馴化といい、お客様は何度か来ているうちに同じ刺激だと慣れてくるからです。だからお店としては常に進化し続ける必要があります。ただ、商売人なら、きっとその自分の成長が愉しいと思うのですが。

Sandel SilivestruによるPixabayからの画像

人気記事

レンタルスペース

レンタルスペース

会社案内

会社案内

メルマガ登録

メルマガ・旬の経営情報
ページの先頭へ戻る