目次
売上を伸ばさない経営
ある経営者の挑戦
1日100食。
営業時間は3時間半。
ランチのみの営業。
ランチの値段はステーキ丼を中心とする、1,000円前後のメニュー3つのみ。
こんな飲食店が成功すると思うでしょうか?
ランチの値段が例えば、1万円ならわかります。
けど、1,000円です。
大都市ならまあ普通か、ちょっと高めぐらいのランチの値段です。
まともな給料なんて払えないんじゃない?と思えば、百貨店並みの給与を払っていると言います。どんなカラクリがあるのでしょうか。
売上を決めると無駄がなくなる
この飲食店は、「佰食屋」といいます。
京都の少し外れの西院というところで、このビジネスが始まりました。
もともと様々な事情で、経営者自身が働く時間に制約があった。
それを従業員で賄うのではなく、自分が休むなら従業員も同じように休めるように、ということで会社を「100食限定」に最適化したと言います。
結果として、ロスは最小限となり、非常に効率的で、労働時間は短く、自由な働き方ができる企業ができたようです。
私も様々な「変わった」経営者とお目にかかりましたが、「売上を上げない」という人は一人もいませんでした。だから思わず手を取ったのが、このお話の主人公である中村朱美さんの著書でした。
売上を決めると効率が上がる
広がるダイバシティの輪
本書を読み進めると、売り上げの上限を決めることで様々なメリットがあることがわかります。そして、無理に能力を伸ばす必要もありません。やることは毎日変わりませんから、例えば高齢の方でも、未経験の方でも、障害のある方でも、外国人でも働くことができ、実際にそういった従業員さんを多数雇用しているようです。
ある意味非常にシステマチックにできているビジネスモデルなので、働く人を選ばないのです。逆に、自分で新たなアイデアをだし、どんどん新しいことに挑戦したい、という人には不向きな職場だと言います。言ってみれば、普通の会社が採用したがらない人こそが、この会社にあう人、と言っているようにさえ聞こえます。
ある程度、短時間労働なので割り切った仕事かと言えば、実はそういった制約の中、つまり、終わりがはっきりわかる仕事だから、その間の集中力が高まるという効果もあるようです。つまり、無理して社員のやる気を引き出す必要のない経営だと言います。
良くも悪くも100食というボトルネック
私の感覚として、よくできたビジネスモデルだな、と感心します。感動さえします。しかし一方で、すべてが100食限定というビジネスの規模に最適化されているだけあって、この100食が崩れると、いろんなところで無理が出てきます。実際に、関西で起きた地震や台風の影響で、かなりのピンチを迎えた時期があったようです。3店舗あった内の1つを占める寸前まで来たそうです。
しかし、このお店はへこたれなかった。そのとき何をしたかは、ぜひ本書でご確認いただきたいと思い案す。

私たちは何を目指して経営するのか?
社員の私生活における幸せ
この佰食屋は、私の印象としては、従業員の私生活の充実に舵を取った経営だと思います。これはとても素晴らしいことだし、私自身あこがれる部分が強いという事実はあります。一方で、すべての会社がここへ向かうというのは少し不自然だと思います。というのも、基本物事は広がる方向感を持っています。この佰食屋はそこを上手にとらえていて、現在、緩やかなフランチャイズというビジネスモデルを検討されているようです。
たぶんですが、ビジネスは規模を抑えようとしても、自然と膨らもうとする力が備わりがちです。そのちからをどう逃してやるかという方向付けが、経営者の手腕というところじゃないかと思います。
彼女の会社は、社員の公私における幸せにフォーカスしました。では、私たちはどこにフォーカスして経営していくのでしょうか。そこを定めておく必要があるのかもしれません。
私が得た勇気
本書から私が受け取った思いがあります。それは、「世間的に無理と思われていることも、やってみれば割とできることもある」ということ。もちろん簡単でないことは承知の上です。ですから、それを乗り越えるほど没頭できるテーマでなければなりませんが、たいていのことはできると思えばできるんだな。そんな風に感じたのがこの佰食屋のお話。
ぜひ一度、食事してみたいお店です。